赤ちゃんのようなみずみずしい生まれたての素肌を目指し、不要になった角質を除去する美容・角質ケア。主に、顔、肘、膝、かかとのケアが主流で、中には美を追求するあまり頻繁に行ってしまう方もいらっしゃいますが、本来、角質は除去しなければならないものではなく、肌にとって必要なものです。
また、角質ケアは行う部位により適切な方法が違うため、角質についての正しい知識を身につけることも、角質ケアを行う上では大切なこと。
今回は、角質ケアを始める前に覚えておきたい、角質に関する知識についてお伝えいたします。
角質と角質層
ふだん私たちが「角質」と呼んでいるのは、表皮の層の中でも最外層にあり、皮膚表面を覆っている「角質細胞」のこと。これは、皮膚を構成する主細胞であるケラチン生成細胞「角化細胞(ケラチノサイト)」が角化により皮膚表面へと移行する過程でケラチンを蓄積し、細胞としては死んだ状態となったものです。
この、角質細胞が10~15層ほど重なった層を「角質層(角層)」と言います。角質層は「角質細胞」と、細胞と細胞の間にある「角質細胞間脂質」と、「水分」で構成されています。
角質層は厚さが約0.02mm(20ミクロン)でラップ1枚程度の厚さしかありませんが、人体を強力に保護しており、人は角質層を失うと外的刺激によるダメージや水分の喪失により、24時間も生存できないと言われるほど重要な役割を担っています。
また、同じ角質層でも、頬は比較的薄く、足裏などは約50層にもなるといわれ、部位によりその厚さは変わります。
角質層の構造とターンオーバー
肌は「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層で成り立っています。さらに表皮の構造は「角質層(かくしつそう)」「顆粒層(かりゅうそう)」「有棘層(ゆうきょくそう)」「基底層(きていそう)」の4つに分けることができます。
表皮の95%を構成し、のちに角質となる角化細胞は、表皮の最下層にある基底層の基底細胞が細胞分裂することで生まれます。生まれた細胞は角化により少しずつ形や性質を変えながら、毎日生まれてくる新しい角化細胞に有棘層、顆粒層へと押し上げられて、約2週間かけて角質層に到達します。そして細胞核や栄養分を吐き出し、代わりにケラチンというタンパク質で満たされます。こうして角質細胞は成熟し、死細胞の角質細胞に変性します。そして角質層に蓄積され、さらに約2週間かけて、垢などの老廃物と一緒に皮膚の表面から自然にはがれ落ちていきます。
このように、角化によって表皮の細胞を入れ替えることで、表皮はターンオーバー(新陳代謝)を行っています。このターンオーバーが正常であれば、美肌の維持はもちろん、角質層が担っている「バリア機能」や「保湿機能」により、健やかな肌状態を保つことができます。
角質層の主な役割
角質層には大きく分けて、皮膚最外層で外部刺激から肌や体を守る「バリア機能」と、肌内部の水分を保つ「保湿機能」の2つの役割があります。
バリア機能と保湿機能
体の最表面の皮膚は、外から受ける刺激、雑菌や細菌、熱や紫外線など、常に刺激にさらされています。そのような多くの刺激から肌、そして体を守っているのが角質層の「バリア機能」です。健康な肌の角質層は10~30%の水分を含んでいて、それらの水分が外部からの刺激や衝撃を和らげたり侵入を防いで肌を守っています。
そして、このバリア機能を可能にする水分を保っているのが保湿機能。
角質層は環境の湿度に影響を受けやすく、空気が乾燥していると皮膚から水分が奪われてしまい、角質細胞がカサカサになりはがれ落ちてしまいます。そうならないよう水分を守り保湿するために、角質細胞内の天然保湿因子・NMFは大量の水分を抱え込み、角質細胞の外側にある角質細胞間脂質や表皮の皮脂膜が膜を張り、角質細胞からの水分の流出を防いでいます。
NMF、角質細胞間脂質、皮脂膜の3つの保湿成分が適切なバランスで保たれていると、バリア機能が正常に働き、肌内部への紫外線や異物、雑菌・細菌などの侵入を防ぎ、肌トラブルを防ぐことができます。
角質層と敏感肌について
肌や身体にとって重要な役割を果たしている角質層ですが、角質細胞がはがれて薄くなったり、肌の乾燥がひどくなると、バリア機能や保湿機能に大きな支障をきたします。
上記の理由などにより角質層の水分量が低下すると、角質層に隙間ができ、水分を失いやすくなると同時に外的刺激を受けやすくなります。このバリア機能が弱くなった状態が「敏感肌」。敏感肌になるとちょっとした刺激にも反応してしまい、肌荒れなどのトラブルを招いてしまいます。
角質層とスキンケアについて
私たちが普段、手で触れている角質層は、スキンケアの上でもとても大切な部分です。正常な角質層は乾燥した場所にいても水分を保持し、肌のなめらかさや柔軟性を保ってくれます。
ここでは、美肌に関わる肌の成分や特徴、スキンケアのポイントについて見ていきます。
角質層内の水分を保つ3つの保湿成分
潤いのある肌を保つには、ターンオーバーのリズムを整え、角質層の水分を保つ役割を担っている「角質細胞間脂質」「NMF」「皮脂」の3つの保湿成分のバランスが大切になってきます。これらのバランスを適切に保つことは、肌トラブルの防止にもつながります。
角質細胞間脂質
角化細胞が角化する過程で生まれた角質細胞間脂質は、角質細胞の隙間を埋めている脂質で、角質層の水分の80%以上を守っています。脂質の層と水分の層が規則正しく交互に層を成す多重構造(ラメラ構造)を形成し、角質層内の水分蒸発を防ぐだけでなく、外部刺激の侵入も防ぐなどバリア機能も担い、角質層の働きを支えています。
この角質細胞間脂質内の約半分を占めている保湿成分が、敏感肌用のスキンケアでもおなじみのセラミドです。細胞間脂質の中に十分な量のセラミドがあり正常に機能をしていれば、湿度が低い環境でも肌が乾燥せず、外的刺激の影響も最小限ですむと言われるほど重要なもので、セラミドが不足すると、角質細胞がまとまらずバラバラになり、皮膚の保湿力が低下、外的刺激にも弱くなるなど、バリア機能も低下してしまいます。また、肌の乾燥はシワやたるみの原因にも…。
セラミドは加齢で減少するものですが、熱いお湯や過度な洗顔でも失われやすいので、スキンケアの時には気をつけましょう。
NMF/Natural Moisturizing Factor(天然保湿因子)
角化細胞が角化する過程で作られる、角質細胞内に水分を蓄えている保湿成分です。主成分は、遊離アミノ酸、乳酸ナトリウム、尿素、ピロリドンカルボン酸(PCA)、無機イオンなどの保湿成分。水溶性物質で水となじみやすく、角質層の乾燥重量の20~30%を占め、角質層の潤いを保つ保湿の要でもあります。
身体の部位や個人差にもよりますが、NMFが多いほど肌が潤っているといえます。
皮脂
角質層の保湿成分のうち、皮脂が果たす役割は2~3%程度。ですが、皮脂と汗が混ざり合った皮脂膜は角質層の表面を弱酸性に保ち、細菌の繁殖を抑制しています。また、皮膚の最表面では、皮膚常在菌が皮脂、汗などを使い、皮脂膜や保湿成分・グリセリンの保護膜で皮膚を覆い、守っています。
角質層のケアのポイント
角質細胞の主成分・ケラチンには、水を含むと柔らかくなり、弾力が増すという性質があります。この性質により、角質層全体の柔軟性や皮膚表面のなめらかさを維持し、肌はみずみずしさやハリ、弾力を保てています。
反対に、水分量が減り乾燥したり、ターンオーバーが乱れてはがれ落ちることなく蓄積すると、角質細胞は脆くボロボロになってしまうので、念入りな保湿により角質層の水分量を保つことが一番の角質ケアといえます。特に肘や膝、かかとなどは乾燥して角質が厚く硬くなり、透明感のない肌になりやすいので、こまめな保湿が必要です。
足裏の皮膚の特徴と角質ケアのポイント
前述のように、足裏の皮膚は角質層が厚いなど、他の部位とは違った特徴があります。ここでは足裏の特徴と角質ケアのポイントをご紹介します。
皮膚が厚い
足裏は角質層が他の部位に比べてもともと厚いのですが、歩行などにより常に物理的な刺激を受ける場所であるため、刺激を受けてさらに角質が厚くなっていくという特徴があります。また、他の部位よりもターンオーバーが早く進むため、角質ができやすく、古い角質がはがれ落ちにくい場所でもあるため、溜まりやすい傾向があります。
そのため、他の部位よりも角質ケアの頻度は多くても大丈夫。念入りな足洗いや軽いマッサージなど低刺激な方法でケアしてあげると、日々の疲労緩和にもなります。
汗腺が多く皮脂腺がない
足裏には汗腺がとても多く、大量の汗をかきます。ところが皮脂腺はなく、肌の水分を維持するために必要な皮脂が分泌されません。そのため、常に乾燥状態で、古い角質がはがれ落ちず蓄積し、皮膚がガサガサになってしまうなど、とても荒れやすい部位。
乾燥を和らげ肌本来の機能を活性するためにも、十分な保湿と、皮脂の代わりになるようなクリームやオイルでのフットケアを、できれば毎日欠かさず行うと、美容面でも健康面でも良い肌状態を保つことができます。
おわりに
健やかな角質層を保つことは、スキンケアの基本であり、角質ケアをする上でもとても大切なこと。保湿などのいつものお手入れは、実はすでに角質ケアとして美容だけでなく肌や体の健康維持にも役立っているということになります。
角質は、人間が生きていくうえで必要なもの。ハリや潤いのある美肌を目指すためにも、角質除去ではなく、まずは丁寧な保湿による角質ケアを心がけましょう。